ドリルミュージックの歴史
1970年代にKool Herc、Grandmaster Flash、Afrika Bambaataaの三人を起点にNYのブロンクスで始まったHip Hopカルチャーは音楽を生み出し、世界中に影響を与え続けてきました。
ロックがパンクロックやメタルへと派生したように、Hip HopもBoom BapやTrapなど、様々な派生を生み出してきました。
ドリルミュージックもその一つで、その原点はシカゴにあります。過激なリリックと凶悪で破壊力のあるベース音はクラブでB-Boy達の心を掴み、ロンドンに渡ってUK・ドリルとなり、その後NYでブルックリン・ドリルを生み出しました。他のドリルと区別する為、今では原点となったシカゴのドリルミュージックをシカゴ・ドリルと表す事がほとんどです。
ドリルミュージックの原点はシカゴにあり、チーフ・キーフはドリルミュージックの創始者です。
そして、これは日本のHip Hopファンの間では有名な話ですが、チーフ・キーフと共に一からドリルミュージックを作ったDJはDJ KENNと言う日本人でした。
KENNさんがシカゴで泊っていた家がたまたまチーフ・キーフのおじさんのお宅で、KENNさんがその家で寝ていると急に当時12歳だったチーフ・キーフがやってきて「お前音楽やってるんだろ?おれもやりたいんだ!」と言ってきた所から二人でドリルミュージックを作ってきたそうです。
治安の悪いシカゴ南部のリアルを伝える過激なドリルミュージックは、チーフ・キーフの代表曲でもある”I don’t like.”の大ヒットと共にロンドンのギャング・カルチャーとも結びつき、音楽的に変化をした後、NYのブルックリンに渡ります。
NYのブルックリン・ドリルの第一人者であるPop Smokeは、彼の死後も彼の作った音楽はクラブで人々を興奮させ続けています。(2020年 Murdered)
ドリルミュージックの特徴
ドリルミュージックを聞いてまず最初に感じるのは凶悪で力強いトラック(曲調、メロディ)です。
Hip Hopはもちろん、黒人系の音楽、いわゆるブラックミュージックではベースとビートが非常に重要視されてきました。
ドリルミュージックでは特にベースが重要視されており、他のジャンルに比べて倍くらい強調されています。もちろんドリルミュージックもその派生や時代の流れと共に歌詞の内容や重要視する音階や音域も変化していきますが。
ドリルミュージックの原点であるチーフ・キーフは、町のリアルを伝える事を重要視しているとインタビュー等でよく語っています。
その為、比喩表現やパンチラインなどを重要視するラップミュージックには珍しく、直接的で純粋なラインが非常に多い事も特徴として挙げられます。
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ギャング文化
この凶悪なリリックを理解する為にはHip Hopにおけるギャング文化を理解する必要があります。というかそれを分からずに聞くと「え、怖い。」と言う感想しか出なくなってしますね。
Hip Hopは前述した通り、ブロンクスの黒人達によって作られました。彼らは大きな権力による強力な差別に何世代もの間苦しめられてきました。彼らにとって警察は黒人を差別し、搾取し、都合の良い様にコントロールする為の組織なのです。
これについては今でも解決しておらず、2020年に大きなムーブメントとなったBLM(Black lives matter / 人種差別抗議運動)運動などが、その一部です。
警察が機能せず悪いことしかしない町の環境は劣悪で、薬物・暴力・盗み・殺人と考えつくだけの悪事がはびこります。その中で安全を得るためにはある程度の武装と力が必要であり、そうして出来上がったのもまたギャングの存在意義のひとつでした。
しかし、ギャングにも良い面を悪い面があり、実際ギャングのせいで安全が保障されなくなってしまった人も大勢います。
人種差別によって始まった悲惨な問題は、150年という長い時間の中で複雑化し、対処しきれない問題となったのです。
しかし、この問題に平和的解決をもたらそうとしたのがHip Hopカルチャーでした。
Hip Hopがその名を得るより以前から、グラフィティーのアーティストたちは地下鉄に思想やメッセージを描き、DJは公園で電灯から電気を、消火栓から身を冷やす潤沢な水をストリートへと拝借し、Bboy達を踊らせ、武器をダンスやライムに変え、学ぶことで賢者となって最悪の環境と闘ったのでした。
Hip Hopで初めてのミュージックビデオであるGrandmaster Flashの”The Message”も当時のブロンクスの現状を伝えるものでした。その系譜から、Hip Hopではよく犯罪の事を表現するのです。
ドリルと言えばとりあえずこれ!名曲5選
I Don't Like - Chief Keef ft. Lil Reese
ドリルミュージックの創始者、チーフ・キーフの代表曲。
22Gz - Suburban Pt. 2
ブルックリンドリルのゴッド・ファーザー
Digga D – STFU
UKドリルの顔役
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POP SMOKE - WELCOME TO THE PARTY
日本のアニメのサンプリング
POP SMOKE – DIOR
ドリルミュージックといえばこの曲
まとめ
どんな音楽ジャンルでもそうである様にドリルミュージックもまた、派生を生むうちに様々な可能性を追求していく為、過激な曲だけでもなくなっていくでしょう。例えば、Pop Smokeの” WHAT YOU KNOW BOUT LOVE”などもその例で、ドリルミュージックとメロウなラブソングの間を上手く取った曲です。古きをと尊び新しきを取り入れながら、今後の変化も楽しみにしていきましょう。
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